王様の耳はパンのミミ

伊藤なむあひの小説とか創作に関するあれです

伊達町と僕

今日はちょっとまじめに書こうかなって。

 

北海道には伊達町という町がある。人口は2万人くらい……って書こうとして調べたら最新情報で1万8千人くらいらしい。僕がまだいた頃には3万には届かないまでも2万5千人くらいはいたはずだったんだけど、どんどん減ってるっぽい。もうちょっとで"市"になるか!?みたいな感じだったのに。

 

生まれてから、18歳、僕が高校を卒業するまではそこで過ごした。特急もとまらないような小さな町で、高校生らしい遊びをするには汽車で30分くらいの隣町に行かなくてはいけなかった。高校生らしい遊び、だなんて言ってもボーリングと映画と、ショッピング(なんかお洒落な服屋?)くらいなんだけど。

 

僕は、映画は近くの神社で夏休みとかにやってる子供向けの上映会みたいのに参加していた。ドラえもんとかの。服は大きなショッピングセンターみたいなところか、たまに親が連れて行ってくれる商店街の服屋でなにか買ってもらっていた。友達とボーリングに行く機会は最後までなかった。

 

そうだ、カラオケだけあったことは覚えてる。コンテナをかためて作った半端な防音室だったから外に音が漏れていた。なにか怖い場所、という印象しかなかった。でも、高校を卒業するときに一度だけ行った。僕は人前で歌を歌ったことなんてなくて、でも親がいない日に家でひとりでヴィジュアル系のバンドの曲を歌ったりはしていたから、その日は黒夢のLike a Angelを歌った気がする。

 

当たり前だけどCDと違って自分以外に歌ってる人がいなかったから出だしの音がわからず、やっと音がつかめたと思ったらキーという概念が当時の僕にはなかったために1オクターブ低く歌っていて友達らしき人に「低すぎ」と言って笑われたような気がする。伊達町っていうのは僕にとってそんな町だ。

 

北海道に住むほぼ全員の子供たちと同じように札幌という場所は果てしなく遠かった(にも関わらず大学を卒業した僕は何故か札幌をすっ飛ばして東京近郊に出たのだけど)。伊達町から札幌までは片道だけで2時間かかるうえに、切符代が5千円近くかかる。存在はするけど行くことのない場所、という認識だった。

 

ちょっと脱線してしまったけど、伊達町に話を戻そう。伊達町。忌まわしき、僕の生まれ育った町だ。その人に目をつけられたら人生終わりとかいう不良の先輩だとか、月に一度は犠牲者が出る三叉路だとか、過去に子供が落下して死んだことのある塔だとか、店主が首を吊ったあとにできた辛さ20倍カレーの店だとか、潰れたままなにもできないスーパーの跡地だとか。じゃなくて。

 

あの町のこととなるとつい悪口みたいになってしまうけど、もうなくなってしまった町のことを言うのは良くない。海と山に挟まれたいい町だ。だからこそ、どうやっても自分がもうあの町に帰れないことがときどきとても悲しくなる。いいことなんてひとつもなかった町のはずなのに、ありもしない楽しかった記憶が勝手に思い出されようとする。

 

記憶が上書きされてしまう前に、僕はあの町のことを記録しておかないといけないと思った。そう思って、書くことにした。時間はかかるけど。たぶん何年もかかるけど。

 

そんな風にしてようやく書けたものを今回ようやく本という形にすることができた。嬉しいというよりも、安心した、という感じだ。

 

灰は灰へ: Ashes to Ashes 伊達町サーガ (隙間社電書)

灰は灰へ: Ashes to Ashes 伊達町サーガ (隙間社電書)

 

 

実は過去の短編小説の中でもちょこちょここの町のことは書かれているので気が向いたら探してみてほしい。

 

そんな感じで、またね。